私たちは、なぜ「マイホーム購入= 資産 」と考えるのでしょう。
住宅販売の営業トークの定番に、「家賃を払い続けるくらいなら、同じ金額でマイホームを購入した方がお得ですよ」というものがあります。では、本当にマイホームは「お得」なのでしょうか。
確かにマイホームを購入して住むことは、「消費」であることに変わりはありません。しかし、多くの人が住宅ローンの返済を終えれば「資産」になる、つまり将来「売る」あるいは「貸す」ことで利益を得られると考えます。こうして「マイホーム購入は投資だ」という意識が生まれ、長期の住宅ローン返済を前提にマイホームを求める人が少なくありません。
不動産価格は「実需」よりも「思惑」に左右されると言われています。日本においては、戦後の高度経済成長期、そして団塊世代の核家族化に伴う住宅需要の急増を背景に、土地の価格が自動的に上昇し、「マイホームは資産になる」という恩恵を受けることができました。
(参考:牧野知弘著『マイホーム価値革命』NHK出版)
団塊世代――現在の70歳代でマイホームを購入した人々は、結果として「マイホーム購入=資産」を実感できた世代です。
しかし現代では事情が大きく異なります。人口減少、空き家の急増、都市部への人口集中といった要因により、全国的な地価上昇はもはや期待できません。むしろ都市と地方で二極化が進み、「資産」としての住宅価値は地域によって大きく差が生じています。
したがって、これからのマイホーム選びは「投資」として資産価値を重視するのか、それとも「住まい」としての効用を優先するのか――この目的の違いによって、選ぶ物件や暮らし方は大きく変わってくるのです。
アパート経営を志す方々の中には、「遊休地を有効に活用できる」「年金とは別の収入源になる」「将来の相続に備えた節税になる」といった魅力的な文言に惹かれ、人生設計の一環として簡単に導入してしまうケースが少なくありません。
また、地方銀行などの金融機関は、こうした土地所有者や副収入を求める会社員などに対し、低金利という後押しを背景にアパートローンを成長分野の一つとして位置付け、積極的に融資を拡大しています。たとえば、2023年度の賃貸住宅向け貸出残高は約36兆7,533億円と、前年度から2,278億円の増加となっており、着実に成長を続けています owners-style.net。
とはいえ、日本は今や著しい少子高齢化と人口減少に直面しており、通用していた期待と現実との間に齟齬が生じ始めています。2024年10月1日時点の推計によれば、総人口は約1億2,380万2千人と、前年に比して55万人、14年連続で減少しています 総務省統計局。そして、出生数は2024年に過去最低の68万6,061人にまで落ち込み、減少率は前年比5.7%と、統計開始以来の最低水準です。合計特殊出生率は1.15にまで低下しました AP News。
将来推計においても、厳しい展望が示されています。日本の総人口は、2050年には約9,515万人にまで減少し、65歳以上の高齢者が急増する一方、生産年齢人口や若年人口は大幅に縮小する見込みです 国土交通省。さらに、2070年には高齢化率(65歳以上)はおよそ40%に達し、総人口は9,000万人を割り込む可能性が高いとされています 厚生労働省AP News。
こうした厳しい人口構造の変化は、地域によって空室リスクを一層高め、アパート経営に対する立地の影響をこれまで以上に重要視させる要因となります。
世の中のあらゆる財やサービスは、需要と供給の均衡によって価格が定まります。アパートの家賃も例外ではなく、その時点の需給関係によって必ず変動することを忘れてはなりません。
アパート経営の赤字は、固定的な支出に対して収入が減少することから生じます。築年数の経過とともに修繕費や維持費は増大し、さらに深刻なのは入居率と家賃が同時に下落していくという現実です。これらの要素が重なれば、経営は急速に行き詰まりかねません。
会社経営と同様に、アパート経営も「収益を上げる」という目的の下に成り立っています。その採算性を見極めるためには、他人任せにせず、自ら「事業収支計画」を立て、現実的な数字に基づいて判断する責任があります。
サブリース業者に委託すれば「誰でも簡単にできる」との宣伝も見受けられますが、その提示する事業収支ソフトの数値を鵜呑みにするのは危険です。そこに映し出されるのはあくまで想定にすぎず、実際の経営環境とは乖離している場合が少なくありません。
アパート経営は「手軽な副収入」ではなく、紛れもない「事業」です。需要と供給の変化を直視せず、安易な期待で参入すれば、想像以上に大きな損失を抱えることになるでしょう。
私たちが家や土地といった不動産を「売る」とき、あるいは「買う」とき、最も関心を寄せるのはやはり「価格」です。
しかし、不動産は一つひとつに個性があり、商品と違って「定価」が存在しません。
これまで不動産に関する情報には、不動産業者と一般消費者とのあいだに大きな情報格差がありました。ところが、インターネットの普及により、一般消費者でも容易に物件情報を収集できるようになり、その格差は次第に縮まりつつあります。
物件情報の代表的な収集手段としては、不動産取引価格や地価公示などの価格情報に加え、防災情報、都市計画情報、周辺施設情報などが挙げられます。これらは国土交通省のウェブサイト「不動産情報ライブラリ」にて公開されています。
同サイトに掲載される「取引価格」とは、実際に売買が成立した「成約価格」を指し、不動産情報サイトに多く見られる「販売価格」とは異なります。成約価格は現実の取引に基づく金額であるため、不動産相場を把握する上で、より信頼性の高い指標といえるでしょう。
また、同サイトでは土地鑑定委員会が公表する「地価公示」も確認できます。これは毎年1月1日時点の標準地の正常な価格を、同年3月に公示するもので、一般の土地取引における基準となるだけでなく、相続税評価や固定資産税評価の目安としても活用されています。さらに、土地再評価に関する法律、国有財産の評価、企業会計における販売用不動産の時価評価の基準としても重要な役割を担っています。
不動産価格は「一物四価」と呼ばれるように、①実勢価格、②公示地価、③路線価、④固定資産税評価額の四つの価格で構成されます。一般に路線価は公示地価の約80%、固定資産税評価額は約70%程度といわれます。実勢価格は実際の取引で形成される価格であり、公示地価との明確な割合は定められていませんが、その不動産が高いのか安いのかを判断するための重要な手掛かりとなります。