住まいコーディネーター


II  「住まいは、日々のくらしをそっと支え、やわらかく包み込む器です。」


昔から「住まいは生活の器」と言われてきました。住まいとは、家族が団らんを楽しみ、人生を生き抜くための活力を再生する空間でなければなりません。

 

しかし現実には、家庭を持つと「持ち家願望」が生じ、価格や外観に納得したと自分に言い聞かせながら、情報に流されて“お仕着せの住まい”を選んでしまうことが多いのです。そこには「暮らす人の生活」や「心のやすらぎ」といった本質が後回しにされています。

 

住まいとは建物のハード面以上に、人生や生活を映し出す「心の拠りどころ」であるべきです。なぜ画一的な間取りや同じような住宅が多いのか、その理由を学び直し、常識に縛られない住まい造りを考えることこそ大切です。

 

人生100年を支えるマイホームの価値は「資産性」ではなく「住まう効用」にあります。住まいは容易に建て替えられるものではなく、住み替えも簡単ではありません。だからこそ、住まい造りは「人生100年を生き抜く器づくり」であり、自分らしい生き方やアイデンティティを確立する空間として考えていきましょう。

 


II  憧れの「○LDKマイホーム」―その原型は、実は賃労働者向け住宅にあったのです。


「3LDK」や「4LDK」といった表記は、**Living・Dining・Kitchen(リビング・ダイニング・キッチン)**の頭文字を示し、キッチンを含む食事空間が居間としても機能する“合理的な間取り”を表しています。

 

この「機能的な○LDK住宅」の源流は、戦後の深刻な住宅不足を背景に、当時の日本住宅公団(現・都市再生機構)が建築家たちとともに構想した「賃労働者住宅」にあります。

 

そのモデルとなったのは、ヨーロッパで「近代建築の巨匠」と称されるル・コルビュジエが提唱した高層集合住宅でした。彼は、第二次産業革命以降の劣悪な住環境から労働者を解放し、優れた人材を確保するために産業界と協力し、近代的で健全な労働者住宅の建設を進めたのです。

 

こうして日本住宅公団が建設した集合住宅のうち、ダイニングキッチンと二つの寝室を備えた住戸タイプは「2DK」と呼ばれ、公団住宅の代名詞として広く親しまれることになりました。(引用元:「UR都市機構」集合住宅歴史展示棟)

 

そして当時は高度経済成長期のただ中にあり、「2DK住宅」はホワイトカラーにとって憧れの住まいでもありました。

それから60年以上を経た今日、その発想は分譲マンションや戸建住宅にまで広がり、私たちがごく当然のこととして受け入れる住まいのかたちとなっているのです。

 


II 「古民家に学ぶ――ストック活用型社会への転換。」


古民家とは、かつて一般庶民が暮らした古い住まいのことです。いま、その「古い建物」が新たな注目を集めています。古民家を活かしたレストランやカフェ、宿泊施設、さらにはリノベーションによって趣ある住空間へと生まれ変わらせる取り組みが進み、独自の価値を創造しています。

 

私たちはなぜ「古民家」に惹かれるのでしょうか。そこには、風情漂う開放的な構造、大きな梁や柱、そして現代住宅には見られない天然素材の魅力があります。地域に根ざした人びとが普請として築き上げた住まいには、日本の伝統的な美しさと、人の営みの息づかいを感じさせる風格が宿っています。

 

さらに、古民家には知恵に基づいた木材利用の工夫があります。適材適所に多様な木を使い分け、耐久性を高め、地域で育った太く良質な材木が惜しげなく用いられてきました。木材は経年によって強度が増し、伐採後およそ百年で最も強くなるとも言われています。

 

一方で、日本の住宅は長らく「建てては壊す」というスクラップ&ビルド型の考え方に支配され、平均耐用年数はわずか三十年にとどまります。これは八十年を超える人の平均寿命と比べると、建物の寿命のほうが短いという矛盾を抱えているのです。

 

こうした状況を改めるため、「つくっては壊す」社会から「良いものをつくり、手入れを重ねて長く大切に使う」ストック活用型社会への転換が求められています。その一環として、長期にわたり住み続けられる優良な住宅(=長期優良住宅)の普及を目的とした「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が、平成20年12月5日に成立し、平成21年6月4日に施行されました。(引用元:「国土交通省」長期優良住宅のページ) 

 


心を満たす暮らし、価値ある住まい。